条文
第13条(産業医等)
事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。
2 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない。
3 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。
4 産業医を選任した事業者は、産業医に対し、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の労働時間に関する情報その他の産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報として厚生労働省令で定めるものを提供しなければならない。
5 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。
6 事業者は、前項の勧告を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該勧告の内容その他の厚生労働省令で定める事項を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければならない。
本条について
職場において労働者の健康管理等を効果的に行うためには、医学に関する専門的な知識が不可欠になります。そのため、事業者は常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに医師のうちから産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければなりません。
常時1,000人以上の労働者を使用する事業場又は法定の有害業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場では、その事業場に専属の産業医を選任しなければなりません。その他の事業場においては嘱託でも差し支えありません。また、常時使用する労働者数が3,000人を超える事業場では2人以上選任しなければなりません。
産業医の職務について
産業医は、以下のような職務を行うこととされています。なお、事業者は産業医に対し、これらの事項をできるよう権限を与える必要があります。
①健康診断、面接指導等の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置、作業環境の維持管理、作業の管理等労働者の健康管理に関すること。
②健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
③労働衛生教育に関すること。
④労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。
また、産業医は労働者の健康管理等を行うことに、必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければなりません。
産業医の資格について
産業医は、医師であって、以下のいずれかの要件を備えた者から選任しなければなりません。
①厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した者
②産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
③労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験区分が保健衛生である者
④大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師又はこれらの経験者
⑤その他、厚生労働大臣が定める者
産業医の選任の手続きについて
事業者は、産業医の選任すべき事由が発生した日から14日以内に産業医を選任しなければならず、選任したときは、遅滞なく、報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。
なお、産業医は、次に掲げる者以外の者から選任をしなければなりません。
①事業者が法人の場合にあっては、当該法人の代表者
②事業者が法人でない場合にあっては事業を営む個人
③事業場においてその事業の実施を統括管理する者
なお、①,②については、事業場の運営について利害関係を有しない者は除きます。
選任の特例について
事業者は産業医を法定の選任基準に従って選任することができないやむを得ない事由がある場合で、所轄労働基準監督署長の許可を受けたときは、法定の選任基準によらず選任することができます。
産業医の選任義務の対象とならない事業場について
事業者は、産業医の選任義務の対象とならない事業場については、労働者の健康管理等を行うのに、必要な医学に関する知市域を有する医師その他厚生労働省令で定める者に労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせるように努めなければなりません。
なお、厚生労働省令で定める者とは、労働者の健康管理等に必要な知識を有する保健師を指します。
産業医の選任人数について
産業医の選任人数については、以下のとおりになります。
事業場の 労働者数 | 1~49人 | 50~999人 | 1,000~3,000人 | 3,000人以上 |
産業医の選任義務 | 選任義務なし | 産業医 ※嘱託も可能 | 産業医 ※専属が義務 | 2名以上の産業医 ※専属が義務 |
ただし、一定の有害業務に500人以上の労働者を従事させる事業場においては、専属の産業医の選任が必要になります。なお、一定の有害業務については、主に以下のとおりですが、深夜業を含む業務も含まれる点で相違しています。
一定の有害業務について(労働安全衛生規則第13条第1項第2号)
有害業務は、労働安全衛生規則第13条第1項第2号にて以下のように定められています。
イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
ニ 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
ホ 異常気圧下における業務
ヘ さく岩機、鋲打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
ト 重量物の取扱い等重激な業務
チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
リ 坑内における業務
ヌ 深夜業を含む業務
ル 水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
ヲ 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
ワ 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務 カ その他厚生労働大臣が定める業務
産業医の勧告について
産業医は、労働者の健康を確保する必要があるときは、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができます。この勧告について、事業者は尊重しなければなりません。
なお、事業者は産業医の勧告を受けたときは、当該勧告の内容等を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければなりません。
また、産業医は、その職務に関する事項について、総括安全衛生管理者に対して、勧告し又は、衛生管理者に対して指導・助言をすることができます。
産業医の巡視について
産業医は、原則として、少なくとも毎月1回作業場を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害の恐れがあるときは、直ちに、労働者の健康場外を防止するために必要な措置を講じなければなりません。
なお、事業者から産業医に所定の情報が毎月提供される場合には、産業医の作業場の巡視の頻度を、毎月1回以上から2か月に1回以上にすることが可能です。ただし、巡視の頻度の変更には事業者の同意が必要です。
所定の情報とは
産業医の作業場の巡視の頻度を2か月に1回以上とする場合に、必要な所定の情報とは以下のとおりになります。
①:衛生管理者が少なくとも毎週1回行う作業場等の巡視の結果
・ 巡視を行った衛生管理者の氏名、巡視の日時、巡視した場所
・ 巡視を行った衛生管理者が「設備、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがある とき」と判断した場合における有害事項及び講じた措置の内容
・ その他労働衛生対策の推進にとって参考となる事項
②:①に掲げるもののほか、衛生委員会等の調査審議を経て事業者が産業医に提供することとしたもの
③:休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が1か月当たり100時間を超えた労働者の氏名及び当該労働者に係る超えた時間に関する情報
なお、定期巡視の頻度の見直しをしない場合においても、事業者は産業医に対して上記①、②の情報を提供することが望まれます。
事業者の同意について
事業者の同意を得る際は、産業医の意見に基づいて、衛生委員会等において調査審議を行ったうえで行うことが必要です。
また、当該調査審議は、巡視頻度を変更する一定の期間を定めた上で、その一定期間ごとに産業医の意見に基づいて行います。
産業医の周知について
産業医を選任した事業者は、その事業場における産業医の業務の内容その他の産業医の業務に関する事項で厚生労働省令で定めるものを、常時各作業場の見やすい場所に提示し、又は備付けること等の方法により、労働者に周知させなければなりません。