条文
この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。
一 賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十
二 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額
2 前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。
3 前二項に規定する期間中に、次の各号のいずれかに該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前二項の期間及び賃金の総額から控除する。
一 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
二 産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間
三 使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間
四 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業(同法第六十一条第三項(同条第六項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第三十九条第十項において同じ。)をした期間
五 試みの使用期間
4 第一項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。
5 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、第一項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。
6 雇入後三箇月に満たない者については、第一項の期間は、雇入後の期間とする。
7 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。
8 第一項乃至第六項によつて算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。
「平均賃金」とは
平均賃金は、解雇予告手当、休業手当、年次有給休暇の賃金、災害補償及び減給の制裁の制限等の場面で、労働者の生活を保障する程度の金額である必要があるため、その基準となります。
平均賃金を算定の基礎とするものについて
① 労働者を解雇する場合の予告に代わる解雇予告手当
・・・平均賃金の30日分以上 (労基法第20条)
② 使用者の都合により休業させる場合に支払う休業手当
・・・1日につき平均賃金の6割以上 (労基法第26条)
③ 年次有給休暇を取得した日について平均賃金で支払う場合の賃金(労基法第39条)
④ 労働者が業務上負傷し、もしくは疾病にかかり、または死亡した場合の 災害補償等 (労基法第76条から82条、労災保険法)
※休業補償給付など労災保険給付の額の基礎として用いられる給付基礎日額も原則として平均賃金に相当する額とされています。
⑤ 減給制裁の制限額
・・・1回の額は平均賃金の半額まで、何回も制裁する際は支払賃金総額の1割までになります。(労基法第91条)
⑥ じん肺管理区分により地方労働局長が作業転換の勧奨または指示を行う際の転換手当
・・・平均賃金 の30日分または60日分(じん肺法第22条)
平均賃金の計算方法について
原則として事由の発生した日以前3か月間に、その労働者に支払われた賃金の総額をその総日数(暦日数)で除した額になります。
ただし、賃金が時間額や日額、出来高給で決められており労働日数が少ない場合など、総額を労働日数で除した6割に当たる額の方が高い場合はその額を適用します( 最低保障額 )。
「算定事由の発生した日以前」とは
算定事由の発生した日の前日からさかのぼる3か月間になります。
「算定事由の発生した日」とは
算定事由の発生した日とは、具体的には以下になります。
① 解雇予告手当
労働者に解雇の予告をした日になります。なお、解雇日を変更した場合であっても当初の解雇予告日をした日が該当します。
② 休業手当
その休業日になります。なお、休業が2日以上に及ぶ場合は、その最初の日になります。
③ 年次有給休暇の賃金
年次有給休暇を取得した日になります。なお、休暇が2日以上に及ぶ場合は、その最初の日になります。
④ 災害補償
事故の発生日または疾病が確定した日になります。
⑤ 減給の制裁の制限額
制裁の意思表示が相手先に到達した日になります。制裁事由の発生日ではありません。
「3か月間の賃金の総額」とは
賃金締切日がある場合は締切日ごとに、通勤手当、皆勤手当、時間外手当など諸手当を含み税金や社会保険料などの控除をする前の賃金の総額 により計算します。
所定労働時間が2暦日に及ぶ場合
原則は暦日のうちに1時間でも勤務をしていれば、1労働日(暦日単位)で算定します。所定労働時間が2暦日にわたる勤務形態の場合は、始業時刻の属する日における1日の労働として取り扱うとされています。(昭和45年5月14日基発第375号)
算定の基礎から控除する期間及び賃金(同条3項)
平均賃金の算定期間中に、次のいずれに該当する期間があるときは、その日数及びその期間中の賃金は、算定の基礎となる期間及び賃金の総額から控除します。
① 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のため休業した期間
② 産前産後の女性が同法65条の規定によって休業した期間
③ 使用者の責めに期すべき事由によって休業した期間
④ 育児介護休業法に規定する育児休業又は介護休業をした期間
⑤ 試みの使用期間
労働争議により正当に罷業もしくは怠業した期間、又は正当な作業場閉鎖によって休業をした期間(昭和29年3月31日 28基収4240号)
●例えば、月給(賃金総額):310,000円、算定事由発生日:10月1日、休業期間:9月1日~9月30日とした場合、9月の休業分の期間及び賃金を除いて計算することになります。
この場合、平均賃金の計算は以下のとおりになります。
(7月賃金310,000円+8月賃金310,000円)÷(7月暦日数31日+8月暦日数31日)
=平均賃金10,000円
また、11月まで休業期間を延長した場合は、8月の賃金総額を暦日数で除した金額が平均賃金になります。
算定の基礎から除外する賃金
算定期間中に支払われた賃金の総額のうち、以下については平均賃金の算定の基礎に含めません。
① 臨時に支払われた賃金
② 3か月を超える期間ごとに支払われる賃金
③ 通貨以外のもので支払われた賃金で、法令または労働協約の定めに基づかないもの
●通勤定期券の支給が、労働協約などに基づいて6か月ごとに行われている場合は、各月の賃金の前払として平均賃金の算定の基礎に含めなければなりません。(昭和33年2月13日基発90号)
●3か月を超える期間ごとに支払われる賃金であるかは、賃金の計算期間が3か月を超えるかで決まります。そのため、賞与部分をあらかじめ定めている年俸制(例えば、年俸額の16分の2を年2回賞与の時期に支払うことが確定している場合など)は、賞与部分を含めた年俸額の12分の1を1か月の賃金として算定する必要があります。(平成12年3月8日基収78号)
事例(休業手当の場合)
9月21日から10月20日までの間、20日の勤務予定があったにもかかわらず、9月29日に使用者側の都合による休業をさせた場合(他の19日は予定通り勤務)。
●条件
・3か月以前賃金
月給300,000円、通勤手当10,000円
・賃金締切日 毎月20日
期間 | 月 | 暦日数 | 金額 |
6月21日~7月20日 | 7月分 | 31日 | 310,000円 |
7月21日~8月20日 | 8月分 | 31日 | 310,000円 |
8月21日~9月20日 | 9月分 | 30日 | 310,000円 |
合計 | 92日 | 930,000円 |
原則的な計算
最低保障額
賃金が日給制、時給制、請負給制などによって定められている場合、原則的な計算方法に算出した額と次の最低保障額の計算方法により算出した額と比較し、いずれか高いほうの額が平均賃金になります。
賃金が「月給制・週休制等の賃金※(1)」と、「日給制、時間給制、請負制の賃金※(2)」が併給されている場合(基本給、諸手当は月給、割増賃金が時給制の場合など)の最低保障額の算定は以下の通りになります。
※(1)を原則の平均賃金で計算した額 + ※(2)を最低保障額で計算した額
特殊な計算例
Ⅰ 算定期間が3か月に満たない場合
① 雇入後3か月に満たない場合(以下の②、③に該当しない場合)
雇入後3か月に満たないものについては、雇入後の期間とその期間中の賃金総額で算定をします。なお、この場合でも賃金締切日があり、一賃金算定期間(1か月以上の期間)が確保できる場合は、直前の賃金締切日から起算します。(昭和23年4月22日基収1065号)
計算例(雇入後3か月にみたない場合)
入社日が10月1日で、12月1日に休業をさせた場合
●条件
・直前の賃金支払い期間賃金
月給300,000円、通勤手当10,000円
・賃金締切日 毎月20日
期間 | 月 | 暦日数 | 金額 |
10月1日~10月20日 | 7月分 | 20日 | 200,000円 |
10月21日~11月20日 | 8月分 | 31日 | 310,000円 |
合計 | 51日 | 510,000円 |
② 算定期間が2週間未満の者(控除期間を除いた期間が2週間未満の者を含む)で、満稼動又は通常の労働と著しく異なる労働をした場合
・都道府県労働局長が以下の計算方法で決定する。
1.算定期間中のすべての日に稼動している場合(2.に該当する者を除く)
算定期間中に支払われた賃金額の総額 ÷ その期間の総暦日数 × 6/7
2.平均賃金の基礎となるべき賃金が、短時間就労、長時間残業その他通常の労働と著しく異なる労働に対する賃金のため、これを基礎とすることが著しく不適当な場合
過去に同種業務に従事した労働者の労働時間数等を勘案して通常の労働に対する賃金額に修正 して算定した金額 (昭 45.5.14 基発第 375 号)
③ 雇入れ当日に算定事由が発生した場合
・都道府県労働局長が以下の計算方法で決定する。
1.一定額の賃金が予め定められている場合
・その額により推算する。
(1)一定額の賃金が日額で定められている場合
日額 × 予定された稼働率又は雇い入れ日前3カ月間の当該事業場の同種労働者の稼働率
※ 稼働率が不明な場合は 日額 × 6/7
(2)一定額の賃金が月額で定められている場合(欠勤等で減額されない場合)
月額 × 3 ÷ 雇い入れ当日前3カ月の暦日数
2.一定額の賃金が予め定められていない場合
・その日に当該事業場において同一の業務に従事した労働者の一人平均の賃金額により推算します。
Ⅱ 算定期間中に控除期間がある場合
① 試用期間中に算定事由が発生した場合
・都道府県労働局長が以下の計算方法で決定します。
試用期間中の日数及びその期間中の賃金で算定します。(労働基準法施行規則第 3 条)
② 控除期間が平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3か月以上にわたる場合
・都道府県労働局長が以下の計算方法で決定する。
控除期間の最初の日をもって平均賃金を算定すべき事由の発生した日とみなし、原則的な計算方法(原則の算定方法と最低保障額の平均賃金の計算方法)で算定します。
※ 控除期間中に賃金水準が変動した場合(平均賃金算定事由発生日(締切日がある場合は直前の賃金締切日)以前 3か月間における当該事業場の実際支払賃金の総額を労働者の延べ人数で除した額と、控除期間の最初の日以前 3か月間におけるそれを比較し、その差が概ね10%以上ある場合)
平均賃金を算定すべき事由の発生した日に、当該事業場において同一業務に従事した労働者の一人平均の賃金額により推算します。
Ⅲ 特殊な控除期間がある場合
① 使用者の責めに帰すべからざる事由による休業期間(私傷病等による休業期間、組合専従期間等)が算定事由発生日以前3か月以上にわたる場合
・都道府県労働局長が以下の計算方法で決定します。
Ⅱの②の方法を準用します。(休業期間の最初の日をもって平均賃金を算定すべき事由の発生した日とみなし、原則的な計算方法(原則の算定方法と最低保障額の平均賃金の計算方法)で算定します。)(昭和24年4月11日基発第421号)
② 算定期間中に以下の期間がある場合は、その期間中の日数及び賃金を控除して算定します。
1.組合専従期間
2.組合専従者でない者が労働協約の規定に従って臨時に組合用務についた期間
3.争議行為のための休業期間
4.育児・介護休業法第2条第1号に規定する育児休業以外の育児休業
5.じん肺に関連するとみられる休業期間(じん肺にかかった労働者に対する災害補償の平均賃金算定期間中)
(昭和25年1月18日基収第129号、昭和26年8月18日基収第3783号、昭和29年3月31日基収第424 号、平成3年12月20日基発第712号、昭和45年5月14号基発第375 号 他)
Ⅳ 最低保障の特例
① 平均賃金の算定期間中に、賃金支払形態が変更された場合
算定期間中に賃金支払形態が変更された場合は以下のとおりになります。なお、以下は日給制から月給制に変更された例になります。
② 日給月給制の場合
以下の各種の賃金ごとに区分してそれぞれ計算し、その合計額(1.2.3.)が最低保障額になります。
1.日給制、時給制又は出来高制その他の請負制の部分
2.日給月給制等の部分(月、週その他一定の期間によって定められ、かつ、欠勤日数もしくは欠勤時間数に応じて減額される部分)
3.月給、週給などの部分(月、週その他一定の期間によって定められ、かつ、欠勤日数又は欠勤時間数に応じて減額されない部分)
Ⅴ 完全月給制(月によって定められ、欠勤、遅刻などで減額されない陳儀)の場合
・算定期間中に一賃金締切期間に満たない期間がある場合
Ⅵ 日々雇い入れられる者(日雇労働者)
稼動状態にむらがあり、日によって勤務先を異にすることが多いので、一般常用労働者の場合と区別して以下のように算定します。
1.日雇労働者の平均賃金(原則)
2.当該事業場で1か月間に働いた同種労働者がいる場合)
上記で算定できない特殊な事案については,都道府県労働局長が決定することとなります。