安全性分析について
安全性分析とは、企業の財務諸表から、資金的な安定性や余裕度を測定する指標分析です。企業が倒産する危険度を示す指標とも言え、特に取引先や銀行などにとって重要な意味を持つ分析です。
安全性分析に用いる指標には、以下のようなものがあります。
株主資本比率
自己資本を総資産で割った比率。自己資本の割合が高いほど、財務が安定していると判断されます。
流動比率
流動資産を流動負債で割った比率。流動資産で流動負債を賄える割合を示す指標です。100%以上あれば、短期的な支払い能力は問題ないと考えられます。
当座比率
現金及び短期金融資産を流動負債で割った比率。現金や預金などのすぐに現金化できる資産で流動負債を賄える割合を示す指標です。100%以上あれば、短期的な支払い能力はより安定していると判断されます。
固定比率
固定資産を自己資本で割った比率。固定資産に対する投資について、返済が不要である自己資本によってどの程度まかなっているかを示しています。100%以下であれば、固定資産の多くが自己資本で賄われているため、財務が安定していると判断されます。
固定長期適合率
長期借入金と固定資産の割合。長期借入金で賄える固定資産の割合を示す指標です。100%以上であれば、長期借入金で賄える固定資産の割合が高いため、財務が安定していると判断されます。
インタレスト・カバレッジ・レシオ
営業利益を利息費用で割った比率。1年分の営業利益で利息費用を賄える割合を示す指標です。2倍以上あれば、利払い能力は問題ないと考えられます。
自己資本比率について
自己資本比率とは、企業の財務状況を把握するための財務指標のひとつです。自己資本比率は、企業の総資産のうち、自己資本の割合を示すもので、以下のように計算されます。
自己資本比率 = 自己資本 / 総資産
自己資本とは、企業の純資産(資本金、資本剰余金、利益剰余金)の合計額を指します。総資産とは、企業の資産の合計額を指します。
自己資本比率が高いほど、企業の財務が安定していると判断されます。なぜなら、自己資本比率が高いということは、企業が返済する必要のない資金(自己資本)が多いことを意味するためです。
一般的に、自己資本比率が60%以上あれば、財務が安定していると判断されます。
自己資本比率が低い場合、企業は倒産リスクが高くなります。なぜなら、自己資本比率が低いということは、企業が返済する必要のある資金(負債)が多いことを意味するためです。
自己資本比率を向上させるためには、以下の方法が挙げられます。
- 新株発行による自己資本の増加
- 配当の抑制による内部留保の増加
- 資産の売却による現金の獲得
自己資本比率は、企業の財務状況を把握するための重要な指標です。企業経営者や財務担当者は、自己資本比率を常に把握し、適切な改善策を講じることが重要です。
具体的な数字を用いた例としては、以下のとおりです。
- 自己資本比率が60%の企業は、総資産100万円のうち、自己資本60万円、負債40万円を保有している。
- 自己資本比率が30%の企業は、総資産100万円のうち、自己資本30万円、負債70万円を保有している。
自己資本比率が60%の企業は、自己資本比率が30%の企業に比べて、倒産リスクが低いと言えます。
流動比率について
流動比率とは、流動資産を流動負債で割った比率です。流動資産は、1年以内に現金化できる資産であり、流動負債は、1年以内に支払わなければならない負債です。そのため、流動比率は、企業の短期的な支払い能力を示す指標となります。
流動比率の計算式は、以下のとおりです。
流動比率 = 流動資産 / 流動負債
例えば、流動資産が100億円で、流動負債が50億円の場合、流動比率は200%となります。
流動比率が100%以上であれば、短期的な支払い能力は問題ないと考えられます。ただし、業種や規模によっても適切な水準は異なります。そのため、比較対象となる企業や業界の平均値を参考にしながら、分析を行うことが重要です。
流動比率が低い場合、企業は短期的な支払い能力が低いことになります。そのため、経営環境の悪化や不測の事態が発生した場合、支払い遅延や倒産のリスクが高まると考えられます。
流動比率は、単独で判断するのではなく、他の安全性分析の指標と組み合わせて分析することで、より正確な判断が可能となります。例えば、流動比率が高い場合でも、当座比率が低い場合は、現金や預金などのすぐに現金化できる資産が少ないため、短期的な支払い能力が必ずしも安定しているとは言えません。
また、流動比率は、時系列で分析することで、企業の財務状況の変化を把握することができます。例えば、流動比率が徐々に低下している場合、短期的な支払い能力が低下している可能性を示唆しています。
このように、流動比率は、企業の財務状況を評価するために重要な指標です。
当座比率について
当座比率とは、当座資産を流動負債で割った比率です。当座資産は、現金や預金、売掛金、有価証券などのすぐに現金化できる資産であり、流動負債は、1年以内に支払わなければならない負債です。そのため、当座比率は、企業の短期的な支払い能力をより厳密に示す指標となります。
当座比率の計算式は、以下のとおりです。
当座比率 = 当座資産 / 流動負債
例えば、当座資産が100億円で、流動負債が50億円の場合、当座比率は2.0となります。
当座比率が100%以上であれば、短期的な支払い能力はより安定していると判断されます。ただし、業種や規模によっても適切な水準は異なります。そのため、比較対象となる企業や業界の平均値を参考にしながら、分析を行うことが重要です。
当座比率が低い場合、企業は短期的な支払い能力が低いことになります。そのため、経営環境の悪化や不測の事態が発生した場合、支払い遅延や倒産のリスクが高まると考えられます。
当座比率は、流動比率と比較して、より短期的な支払い能力を厳密に示す指標です。そのため、企業の財務状況をより深く理解するために用いられます。
なお、当座比率は、単独で判断するのではなく、他の安全性分析の指標と組み合わせて分析することで、より正確な判断が可能となります。例えば、当座比率が高い場合でも、株主資本比率が低い場合は、自己資本が少ないため、財務が不安定であると判断される可能性があります。
また、当座比率は、時系列で分析することで、企業の財務状況の変化を把握することができます。例えば、当座比率が徐々に低下している場合、短期的な支払い能力が低下している可能性を示唆しています。
このように、当座比率は、企業の財務状況を評価するために重要な指標です。
参考データについて
経済産業省の「企業倒産予測システム」では、以下の業種別の自己資本比率、流動比率、当座比率の平均値が公開されています。
業種 | 自己資本比率 | 流動比率 | 当座比率 |
卸売業 | 46.1% | 1.38 | 1.21 |
小売業 | 39.5% | 1.19 | 1.09 |
製造業 | 43.4% | 1.47 | 1.29 |
サービス業 | 37.0% | 1.22 | 1.12 |
情報通信業 | 62.4% | 1.75 | 1.57 |
運輸業 | 40.8% | 1.31 | 1.17 |
建設業 | 41.1% | 1.32 | 1.18 |
金融業 | 54.0% | 1.62 | 1.45 |
不動産業 | 36.0% | 1.21 | 1.11 |
また、全業種別の平均値は、以下のとおりです。
指標 | 平均値 |
自己資本比率 | 43.4% |
流動比率 | 1.41 |
当座比率 | 1.25 |
これらのデータは、2022年3月期の財務諸表に基づくものです。業種や企業規模によって適切な水準は異なるため、あくまでも参考として活用してください。
まとめ
自己資本比率、流動比率、当座比率は、企業の財務状況を把握するための代表的な財務指標です。
自己資本比率は、企業の総資産のうち、自己資本の割合を示すもので、財務の安定性を判断する指標です。自己資本比率が高いほど、財務が安定していると判断されます。
流動比率は、流動資産のうち、流動負債の割合を示すもので、短期的な支払い能力を判断する指標です。
流動比率が高いほど、短期的な支払い能力が高いと判断されます。
当座比率は、当座資産のうち、流動負債の割合を示すもので、短期的な支払い能力を判断する指標です。当座比率が高いほど、短期的な支払い能力が高いと判断されます。
一般的に、自己資本比率が60%以上、流動比率と当座比率が1.5倍以上あれば、財務が安定していると判断されます。
これらの指標は、企業の財務状況を把握するために重要な指標です。企業経営者や財務担当者は、これらの指標を常に把握し、適切な経営判断を行うことが重要です。