条文
第32条の3(フレックスタイム制)
使用者は、就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねることとした労働者については、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、その協定で第二号の清算期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において、同条の規定にかかわらず、一週間において同項の労働時間又は一日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。
一 この項の規定による労働時間により労働させることができることとされる労働者の範囲
二 清算期間(その期間を平均し一週間当たりの労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、三箇月以内の期間に限るものとする。以下この条及び次条において同じ。)
三 清算期間における総労働時間
四 その他厚生労働省令で定める事項
2 清算期間が一箇月を超えるものである場合における前項の規定の適用については、同項各号列記以外の部分中「労働時間を超えない」とあるのは「労働時間を超えず、かつ、当該清算期間をその開始の日以後一箇月ごとに区分した各期間(最後に一箇月未満の期間を生じたときは、当該期間。以下この項において同じ。)ごとに当該各期間を平均し一週間当たりの労働時間が五十時間を超えない」と、「同項」とあるのは「同条第一項」とする。
3 一週間の所定労働日数が五日の労働者について第一項の規定により労働させる場合における同項の規定の適用については、同項各号列記以外の部分(前項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)中「第三十二条第一項の労働時間」とあるのは「第三十二条第一項の労働時間(当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、労働時間の限度について、当該清算期間における所定労働日数を同条第二項の労働時間に乗じて得た時間とする旨を定めたときは、当該清算期間における日数を七で除して得た数をもつてその時間を除して得た時間)」と、「同項」とあるのは「同条第一項」とする。
4 前条第二項の規定は、第一項各号に掲げる事項を定めた協定について準用する。ただし、清算期間が一箇月以内のものであるときは、この限りでない。
フレックスタイム制の趣旨について
フレックスタイム制は、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度です。労働者は仕事と生活の調和を図りながら効率的に働くことができ、使用者にとっても効率的な労働力の提供を受けることができるため、生産性の向上が期待できます。
フレックスタイム制の導入の要件について
フレックスタイム制を導入するためには以下の2つの要件を満たす必要があります。
①就業規則その他これに準ずるものにより始業・終業時刻の両方を労働者の決定にゆだねる旨を定める必要があります。
●参考 就業規則の記載例
第〇条 (フレックスタイム制)
フレックスタイム制が適用される従業員の始業および終業の時刻については、従業員
の自主的決定に委ねるものとする。ただし、始業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は、午前〇時から午前〇時まで、終業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は、午後〇時から午後〇時までの間とする。 【フレキシブルタイム】
2 午前〇時から午後〇時までの間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)については、所属長の承認のないかぎり、所定の労働に従事しなければならない。【コアタイム】
②労使協定に以下の事項を定める必要があります。
1.対象となる労働者の範囲
対象となる労働者の範囲は、各人ごと、課ごと、グループごと等様々な範囲が考えられます。例えば、「全従業員」、「企画部職員」と定めることや「Aさん、Bさん、・・・」とすることも構いません。
2.清算期間(3か月以内の期間に限ります。)
清算期間を定めるに当たっては、その長さに加えて、清算期間の起算日を定めなければなりません。
3.清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)
清算期間における総労働時間とは、労働契約上、労働者が清算期間において労働すべき時間として定められた時間になります。つまり、所定労働時間のことを意味しますので、フレックスタイム制では、清算期間を単位として所定労働時間を定めることとなります。
4.標準となる1日の労働時間
標準となる1日の労働時間とは、年次有給休暇を取得した際に支払われる賃金の算定基礎となる労働時間の長さを定めるものです。清算期間における総労働時間を、期間中の所定労働日数で割った時間を基準として定めます。
フレックスタイム制の対象労働者が年次有給休暇を1日取得した場合には、その日については、標準となる1日の労働時間を労働したものとして取り扱う必要があります。
5.労働者が必ず労働しなければならない時間帯(コアタイム)を定める場合には、その時間帯の開始時刻及び終了の時刻
コアタイムは、労働者が1日のうちで必ず働かなければならない時間帯です。必ず設けなければならないものではありませんが、これを設ける場合には、その時間帯の開始・終了の時刻を協定で定める必要があります。
コアタイムの時間帯は協定で自由に定めることができ、
・コアタイムを設ける日と設けない日がある
・日によって時間帯が異なる
といった定めも可能です。
なお、コアタイムを設けずに、実質的に出勤日も労働者が自由に決められることとする場合にも、所定休日は予め定めておく必要があります。
6.労働者がその選択により労働することができる時間帯(フレキシブルタイム)に制限を設ける場合はその開始及び終了の時刻
フレキシブルタイムは、労働者が自らの選択によって労働時間を決定することができる時間帯のことです。フレキシブルタイム中に勤務の中抜けをすることも可能です。
フレキシブルタイムも必ず設けなければならないものではありませんが、これを設ける場合には、その時間帯の開始・終了の時刻を協定で定める必要があります。
フレキシブルタイムの時間帯も協定で自由に定めることができます。
コアタイムが1日の労働時間と同程度、フレキシブルタイムが極端に短い場合
コアタイムの時間が1日の労働時間とほぼ同程度になるような場合や、フレキシブルタイムの時間帯が極端に短い場合など、労働者が始業・終業時刻を自由に決定するという趣旨に反します。そのため、この場合はフレックスタイム制を適用できないことが考えられます。
派遣労働者の場合
派遣労働者を派遣元において、フレックスタイム制の下で労働させる場合には、派遣元の使用者は次のことを行う必要があります。(昭和63年1月1日基発1号)
1.派遣元の就業規則その他これに準ずるもの、始業及び終業時刻を派遣労働者にゆだねることを定めること
2.派遣元において、労使協定を締結し、所定の事項について協定すること
3.労働者派遣契約において、当該労働者をフレックスタイム制の下で労働させることを定めること
労使協定の届出について
フレックスタイム制に関わる労使協定は、清算期間が1か月を超える場合、管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
労働時間の把握について
フレックスタイム制を採用する場合も、使用者は各労働者の各日の労働時間の把握をする必要があります。(昭和63年3月14日基発150号)
年次有給休暇を取得した場合について
フレックスタイム制を適用する労働者が、年次有給休暇を所得した場合には、労使協定で定める標準となる1日の労働時間、労働したものとして取り扱います。(平成9年3月25日基発195号)
休憩時間について(昭和63年3月14日基発150号)
1.一斉休憩を与える必要がある場合
フレックスタイム制を採用した場合であっても、一斉休憩が必要な場合は、コアタイム中に休憩時間を定める必要があります。
2.一斉休憩を与える必要がない場合
休憩時間を一斉に与える必要がない事業場において、フレックスタイム制を採用する場合であって、休憩時間の時間帯を労働者にゆだねるときは、就業規則において、各日の休憩時間の長さを定め、それをとる時間帯は労働者にゆだねる旨を規定をすればよいとされています。
時間外・休日労働に関わる協定(36協定)の締結について
36協定(時間外・休日労働に関わる協定)を締結する際、1日について延長することを規定する必要はなく、1か月及び1年について協定すれば足りるとされています。(平成30年12月28日基発15号)
フレックスタイム制の労働時間について
フレックスタイム制を導入した場合には、労働者が労働時間を自主的に決定することになります。そのため、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働した場合も、直ちに労働時間になるものではありません。逆に、1日の標準の労働時間に達しない時間もそれをもって直ちに欠勤となるわけではありません。
清算期間における実際の労働時間のうち、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間数が時間外労働となります。
上限時間の計算式
●特例措置対象事業所とは
常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く。)、保健衛生業、接客娯楽業をいいます。
清算期間に総労働時間と実労働時間との過不足が発生した場合の賃金の支払いについて
フレックスタイム制は、始業・終業時刻の決定を労働者にゆだねる制度になりますが、使用者が労働時間を管理しなくていいものではありません。
そのため、フレックスタイム制を採用した場合には、清算期間における総労働時間と実労働時間との過不足に応じて、以下のように賃金の清算を行う必要があります。
①実労働時間が清算期間における総労働時間を超える場合
超過した時間分について、割増賃金の支払いが必要になります。
②実労働時間が清算期間における総労働時間に満たない場合
以下のいずれかの方法で対応できます。
1.不足分の賃金を控除して支払う方法があります。
2.不足時間を繰り越して、次の清算期間の総労働時間に合算する方法があります。ただし、加算後の時間(総労働時間+前の清算期間における不足時間)は、法定労働時間の総枠の範囲内である必要があります。
完全週休2日制の場合のフレックス制の適用(第32条の3第3項)
完全週休2日制で、清算期間が1か月のフレックスタイム制を適用した場合、1日平均8時間の労働時間としても、月によっては清算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠を超えることがあります。例えば、月の歴日数が31日で8日の休日となる場合、労働日数が23日となる月があります。
この場合は、総労働時間が「8時間×23=184時間」となる一方で、法定労働時間の総枠は、「40時間÷7日×31日=177.1時間」となり、1日の労働時間を8時間としていても、6.9時間について法定労働時間の総枠を超えてしまいます。
この不整合については、通達において時間外労働として取り扱わないこととして差し支えない(平成9年3月31日基発228号)としていましたが、法改正後は、労働基準法第32条の3第3項において、法定労働時間の総枠を超える場合も、労使協定で所定日数に8時間を乗じた時間数を法定労働時間の総枠と定めることが可能となる旨を明文化しています。
清算期間が「1か月を超える場合」のフレックスタイム制について
法改正により、フレックスタイム制の清算期間の上限は「3か月」に延長されています。これにより、月をまたいだ労働時間の調整により柔軟な働き方が柔軟になります。
これまでは、1か月以内の清算期間における実労働時間があらかじめ定めた総労働時間を超えた場合には、超過した時間について割増賃金を支払う必要がありました。
また、一方で実労働時間に達しない場合には、
●欠勤扱いとなり賃金が控除されるか
●仕事を早く終わらせることができる場合も欠勤扱いとならないように総労働時間に達するまでは労働しなければならない
といった状況が考えられました。
清算期間を延長することによって、2か月、3か月といった期間の総労働時間の範囲内で、労働者の都合に応じた労働時間の調整が可能となります。
なお、具体的な活用事例は、共働きで働く夫婦が子供の子育てをする場合で、夏休み期間中は少ない労働時間で働き、夏休み前の繁忙期などに多く働く場合などが考えられます。
清算期間が1か月を超える場合の時間外労働の算定について
清算期間が1か月を超える場合には、
① 清算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠を超えないこと(清算期間全体の労働時間が、週平均40時間を超えないこと)
② 1か月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えないこと
を満たす必要がありますので、いずれかを超えた時間は時間外労働となります。
このため、月によって繁閑差が大きい場合にも、繁忙月に過度に偏った労働時間とすることはできません。
また、清算期間が月単位ではなく最後に1か月に満たない期間が生じた場合には、その期間について週平均50時間を超えないようにする必要があります。
中途採用等の取扱いについて(法32条の3の2)
清算期間が1か月を超える場合に、中途入社や途中退職など実際に労働した期間が清算期間よりも短い労働者については、その期間に関して清算を行います。実際に労働した期間を平均して、週40時間を超えて労働していた場合には、その超えた時間について割増賃金の支払いが必要です。
例えば、清算期間を4月1日から6月30日までの3か月とするフレックスタイム制を導入する場合で、5月1日に入社した労働者については、5月1日から6月30日までの2か月を平均して1週間当たり40時間を超えて労働させたときは、その超えた分について割増賃金の支払いが必要になります。
第32条の3の2
使用者が、清算期間が一箇月を超えるものであるときの当該清算期間中の前条第一項の規定により労働させた期間が当該清算期間より短い労働者について、当該労働させた期間を平均し一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合においては、その超えた時間(第三
十三条又は第三十六条第一項の規定により延長し、又は休日に労働させた時間を除く。)の労働については、第三十七条の規定の例により割増賃金を支払わなければならない。
特例措置の事業所について(労働基準法施行規則第25条の2第4項)
特例措置対象事業場については、清算期間が1か月以内の場合には週平均44時間までとすることが可能ですが、清算期間が1か月を超える場合には、特例措置対象事業場であっても、週平均40時間を超えて労働させる場合には、36協定の締結・届出と、割増賃金の支払が必要です。
清算期間を3か月とした場合の時間外労働のイメージ
時間外労働が発生しないパターン
①3か月の労働時間が、平均して週40時間以内、かつ、②1か月ごとの労働時間が週平均50時間以内
時間外労働が発生するパターン
●3か月の労働時間が、平均して週40時間を超える場合
●1か月ごとの労働時間が週平均50時間以内を超える場合
労使協定の届出について
清算期間が1か月を超える場合には、労使協定の届出が必要になります。
なお、清算期間が1か月を超える場合のフレックスタイム制の導入には、以下の3点が必要になります。
①就業規則等への定め
②労使協定での所定の事項の定め
③労使協定の諸葛労働基準監督署長への届出
なお、清算期間が1か月を超える場合の労使協定を所轄の労働基準監督署長への届出に違反すると罰則(30万円以下の罰金)が科せられることがあります。清算期間が1か月以内の場合には届出は不要です。
フレックスタイム制における時間外労働について
36協定の届出について
フレックスタイム制で働く労働者についても、時間外労働を行う場合には、36協定の締結・管轄の労働基準監督署への届出が必要となります。
ただし、時間外労働のカウント方法が、通常の労働時間制度とは異なります。
フレックスタイム制を採用した場合には、清算期間における総労働時間の範囲内で、日ごとの労働時間については労働者自らの決定にゆだねられますので、フレックスタイム制では、清算期間を単位として時間外労働を判断することになります。そのため、36協定においては「1日」の延長期間について協定をする必要はなく、「1か月」、「1年」の延長時間を協定することになります。
清算期間が1か月を超える場合について
清算期間が1か月を超える場合には1か月ごとに1週間当たり50時間を超えて労働させることはできません。
これを超えて労働させるには、36協定の締結・届出が必要となります。
さらに、清算期間を通じて法定労働時間の総枠を超えて労働させる場合にも36協定の締結が必要となります。
したがって、以下の①、②がそれぞれ時間外労働としてカウントされます
①1か月ごとに、週平均50時間を超えた労働時間
②清算期間を通じて、法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①でカウントした時間を除きます。)
時間外労働の具体的な計算例
以下のように、清算期間を10月1日から12月31日までの3か月間で、実労働時間が以下のようになった場合の計算をします。
時間外労働を算出するために、まず清算期間における法定労働時間を計算します。
なお、計算式は以下のようになります。
清算期間における法定労働時間の総枠=1週間の法定労働時間(40時間)×清算期間の暦日数÷7
したがって、4月(30日)、5月(31日)、6月(30日)と3か月の暦日数が91日となりますので、以下のように法定労働時間が求められます。
40時間×91日÷7日=520時間
次に、1か月ごとの各月の週平均労働時間が50時間となる月間の労働時間数を求めます。
式については、以下のとおりになります。
週平均50時間となる月間の労働時間数=50時間×各月の暦日数
なお、暦日数が30日の場合と31日の場合は以下のようになります。
50時間×30日÷7日=214.2時間
50時間×31日÷7日=221.4時間
したがって、4月は214.2時間、5月は221.4時間、6月は214.2時間となります。
以上により、清算期間を1か月ごとに区分した各期間で、週平均50時間を超えた時間を時間外労働として算出します。なお、清算期間の最後に1か月に満たない期間が発生する場合には、その期間を平均して週平均50時間を超えているか判断します。
実労働時間のうち、週平均50時間を超える時間を時間外労働(5.8時間)として集計します。
清算期間を通じて法定労働時間の総枠を超えて労働した時間については、清算期間終了後に最終月の時間外労働としてカウントします。ただし、以下の式のとおり、各月で算出した時間外労働分は除きます。
清算期間を通じて、法定労働時間の総枠を超えた時間外労働=
清算期間を通じた実労働時間-各月において週平均50時間超過分として清算した時間外労働の合計-清算期間における法定労働時間の総枠
以上より今回のケースは以下のように時間外労働が産出されます。
540時間(3か月の実労働時間)-5.8時間(4月の時間外労働)-520時間(3か月法定労働時間)=14.2時間
この法定労働時間の総枠(520時間)を超えた時間(14.2時間)については、6月の時間外労働としてカウントして、6月の賃金支払日に割増賃金を支払います。