「パートさんの時間を延ばして社会保険に入ってもらいたい。短時間労働者労働時間延長支援コースという助成金が使えると聞いたけど、うちも対象?」
社会保険の適用拡大が進むなかで、こうした相談が増えています。一方で、以前よく使われていた「社会保険適用時処遇改善コース」は、2025年度末(2026年3月)までの取組で受付が終わりました。そのため今、パートさんの時間延長に使えるのは、キャリアアップ助成金の「短時間労働者労働時間延長支援コース」です。
結論から言うと、パートさんを新しく社会保険に加入させ、週の所定労働時間を延ばした会社に、1人あたり最大75万円が支給されます。ただし、加入日の前日までに計画書を出していないと対象になりません。そこでこの記事では、要件と申請の順番、会社の負担の目安を整理します。
- パートさんを社会保険に加入させ、週の所定労働時間を延ばすと、1人あたり最大75万円(小規模企業の場合)
- 1年目は「週5時間以上の延長」か「2〜5時間の延長と賃上げ」の組み合わせ。どれを選んでも金額は同じです
- キャリアアップ計画書は、社会保険の加入日の前日までに出す必要があります
短時間労働者労働時間延長支援コースとは(早見表)
労働時間延長支援コースは、2025年7月に「年収の壁」への対策として新しくできました。具体的には、パートさんなどを新たに社会保険に加入させ、あわせて収入を増やす取組をした会社に助成されます。
| 小規模企業 | 中小企業 | 大企業 | |
|---|---|---|---|
| 1年目の取組 | 50万円 | 40万円 | 30万円 |
| 2年目の取組 | 25万円 | 20万円 | 15万円 |
| 合計(最大) | 75万円 | 60万円 | 45万円 |
金額は1人あたりです。また、申請できる人数に上限はありません。なお、小規模企業は、常時雇用する労働者がおおむね30人以下の会社です。

労働時間延長支援コースと社会保険適用時処遇改善コースの違い
「社会保険適用時処遇改善コース」は、手当の支給や労働時間の延長で手取りの減少を補った会社を助成するしくみでした。ただし、このコースは2025年度末で終わり、2026年4月以降に社会保険に加入した人は対象外です。
新しいコースは、手当ではなく労働時間の延長(必要に応じて賃上げ)が条件です。なお、古いコースで計画書を出していた会社は、改めて計画書を出さなくても、新しいコースに切り替えられる場合があります。
検索すると、今でも古いコースの解説がたくさん出てきます。そのため、手当を払えばもらえると思って準備を進めないよう、コースの名前と受付期間を最初に確認しておきましょう。
労働時間延長支援コースで1年目と2年目に必要な取組
1年目は4つのパターンから選ぶ
1年目は、週の所定労働時間の延長と、賃金の増加を組み合わせた4つのパターンがあります。また、どのパターンでも、助成額は同じです。


たとえば、週18時間のパートさんを週20時間に延ばす場合、延長は2時間なので、賃金を15%以上上げる必要があります。一方、週16時間から21時間に延ばすなら、5時間以上の延長なので賃上げの条件はありません。
2年目は、さらにもう一歩
2年目は、1年目の後に、さらに週2時間以上延ばす、基本給を5%以上上げる、昇給・賞与・退職金のいずれかの制度を新しく適用する、のどれかを行うと助成されます。
労働時間延長支援コースの対象になる人・ならない人
労働時間延長支援コースで助成の対象になるのは、主に次の条件を満たす人です。
- 社会保険に加入する日の6か月以上前から、続けて雇っている有期雇用やパートの人
- 社会保険の加入にあわせて、週の所定労働時間を延ばした人
- 過去6か月間は社会保険の加入要件を満たしておらず、過去2年以内に同じ事業所で加入していなかった人
一方、社長や取締役の3親等以内の親族は対象になりません。また、申請する日に退職している人も対象外です。
さらに、会社の側にも、雇用保険の適用事業所であること、キャリアアップ管理者を置くこと、労働保険料を納めていること、申請前の1年間に労働関係の法令違反がないことなどの条件があります。
労働時間延長支援コースの申請の順番(計画書 → 延長 → 6か月 → 申請)
労働時間延長支援コースでいちばん大切なのは、申請の順番です。12月1日に社会保険に加入する例で見てみます。


1. キャリアアップ計画書を出す(加入日の前日まで)
キャリアアップ管理者を決め、計画期間(3年以上5年以内)を定めたキャリアアップ計画書を、管轄の労働局に出します。なお、電子申請も使えます。
2. 労働時間を延ばし、社会保険に加入する
雇用契約書(労働条件通知書)に、延ばした後の週の所定労働時間と社会保険の加入を書いて、契約を結び直します。ただし、基本給や決まった手当を、理由なく下げてはいけません。
3. 6か月間続ける
延ばした後の働き方を6か月間続けます。もし、この間に退職してしまうと、その人の分は申請できません。
4. 支給申請をする(6か月目の給料日の翌日から2か月以内)
6か月分の賃金を支払ったら、翌日から2か月以内に申請します。期限を過ぎると受け取れません。そのため、給料日から逆算して予定に入れておきましょう。
計画書を社会保険の加入日より後に出すと、その人は対象になりません。特に、適用拡大で会社が対象になる時期が決まっている場合は、その日の前日が期限になります。つまり、時間の延長を決めたら、まず計画書の準備から始めてください。
労働時間延長支援コースを使うと会社の負担はどれくらい?(試算)
中小企業で、時給1,200円のパートさんの所定労働時間を、週16時間から週21時間に延ばした場合で試算してみます。


賃金は年に約31万円、会社が負担する社会保険料は年に約20万円増えます。一方で、1年目は助成金40万円が入るので、実質の負担は約11万円です。ただし、2年目以降は助成金がない年も続くので、その分の人件費も見込んでおく必要があります。
なお、保険料のしくみや、会社が適用拡大の対象になる時期は、社会保険の適用拡大、うちはいつから?で、週20時間の数え方はパートの「週20時間の壁」とは?でまとめています。
経営の目線で考えたいこと
助成金ありきで時間を延ばさない
労働時間延長支援コースの助成金は1人あたり最大75万円と大きく見えます。しかし、受け取れるのは最初の2年分だけです。そのため、延ばした時間に見合う仕事があるか、人の配置やシフトがどう変わるかを先に考え、そのうえで助成金を使えるかを確認する順番がおすすめです。
「何人に、どのくらい働いてもらうか」を決めてから
たとえば、時間を延ばしてもらう人と、短時間のまま働く人を分けて考えると、シフトも人件費も見通しが立てやすくなります。さらに、本人の希望を聞いたうえで、延ばしてもらう人に絞って計画書を出すと、手続きの手間も抑えられます。
また、2年目の取組に「昇給・賞与・退職金制度の新設」が入っているのは、長く働いてもらうための仕組みづくりを後押しする狙いです。だからこそ、助成金をきっかけに、パートさんの評価や昇給のルールを整えるのもよいと思います。
ほかに使える支援
- 保険料調整制度は、会社が保険料を多めに負担して、本人の手取りの減少をやわらげる制度です。新たに適用拡大の対象になる会社などが使えます。
- 年収の壁突破・総合相談窓口(0120-030-045、平日8:30〜18:15)では、助成金の使い方を無料で相談できます。
- 都道府県労働局・ハローワークでは、計画書の書き方や申請の手続きについて相談できます。
労働時間延長支援コースの申請前チェックリスト
- 時間を延ばす人と、社会保険の加入日を決めた
- 対象の人が、加入日の6か月以上前から続けて雇われているか確認した
- 1年目の4パターンのどれにあたるか確認した(延長時間と賃上げ率)
- キャリアアップ管理者を決めた
- キャリアアップ計画書を、加入日の前日までに労働局へ出した
- 雇用契約書に、延長後の所定労働時間と社会保険の加入を書いた
- 6か月目の給料日と、申請期限(その翌日から2か月)を予定に入れた
- 2年目の取組(さらに延長、基本給アップ、制度の新設)を検討した
よくある質問
Q. すでに社会保険に入っているパートさんの時間を延ばしても対象ですか?
A. 原則として対象になりません。労働時間延長支援コースは、新たに社会保険に加入させることが前提です。過去6か月間に加入要件を満たしていた人や、過去2年以内に同じ事業所で加入していた人は対象外です。
Q. 社会保険適用時処遇改善コースで計画書を出していました。どうなりますか?
A. 古いコースの計画書を出している会社は、新しいコースのために改めて計画書を出す必要はありません。ただし、切り替えの可否や手続きは状況によって異なるので、管轄の労働局に確認してください。
Q. 労働時間延長支援コースはいつまで使えますか?
A. 当分の間の暫定措置とされていて、終わりの時期は決まっていません。ただし、要件や金額は年度ごとに見直されることがあるので、申請の前に最新のパンフレットを確認してください。
Q. 週18時間から20時間に延ばすだけでも対象ですか?
A. 延長が2時間の場合は、賃金を15%以上上げることが条件です。一方、賃上げをしない場合は、週5時間以上の延長が必要です。
まとめ
パートさんの時間を延ばして社会保険に加入してもらうなら、キャリアアップ助成金の「短時間労働者労働時間延長支援コース」が使えます。1年目と2年目の取組で、1人あたり最大75万円(小規模企業)です。
いちばんの注意点は、加入日の前日までに計画書を出すことです。そのため、まずは時間を延ばしてもらう人と加入日を決め、そこから逆算して準備を始めてください。
参考にした公的情報
厚生労働省「キャリアアップ助成金」
キャリアアップ助成金 短時間労働者労働時間延長支援コース リーフレット(令和8年4月1日版、厚生労働省)
厚生労働省「短時間労働者労働時間延長支援コース 事業主の方向けQ&A」
キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コース(厚生労働省)
厚生労働省「年収の壁対策として、労働者1人につき最大75万円を助成します!」
※この記事は2026年10月時点の公表情報をもとにした一般的な解説です。個別の事情によって取り扱いが異なる場合があるため、具体的な対応は都道府県労働局やハローワーク、専門家にご確認ください。

