「社会保険に入りたくないので、『週20時間の壁』を超えないようにシフトを組んでください」
パートさんからこう頼まれて、シフトづくりに悩んでいる会社は少なくありません。労務相談でも、この「週20時間」をめぐる質問はよく聞かれます。
2026年10月に、いわゆる「106万円の壁」(月額賃金8.8万円以上の要件)がなくなり、パートさんが社会保険に入るかどうかの分かれ目は週20時間になりました。結論から言うと、週20時間は契約で決めた所定労働時間で判断し、残業で一時的に超えただけでは、すぐに加入にはなりません。
この記事では、週20時間の数え方と、超えたときの扱い、そして会社としてシフトをどう組み立てるかを整理します。
- 週20時間は、残業を含めた実際の時間ではなく、契約上の所定労働時間で判断します
- ただし実際の時間が2か月続けて週20時間以上になり、今後も続く見込みなら3か月目から加入です
- 雇用保険も週20時間が基準ですが、2028年10月から週10時間以上に広がります
「週20時間の壁」とは(早見表)
週20時間が関係する制度は、主に社会保険と雇用保険の2つです。
| 制度 | 週20時間との関係 | 対象になる会社 |
|---|---|---|
| 社会保険(健康保険・厚生年金) | 週の所定労働時間が20時間以上なら加入(学生などは除く) | 厚生年金の加入者が51人以上の会社など(2027年10月から36人以上) |
| 雇用保険 | 週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがあれば加入 | 会社の規模に関係なく対象。2028年10月から週10時間以上に拡大 |
社会保険は、会社が適用拡大の対象になっていることが前提です。会社が対象になる時期は、社会保険の適用拡大、うちはいつから?で従業員数別にまとめています。

週20時間はどう数える?
残業は含めず、契約上の「所定労働時間」で判断する
週20時間かどうかは、就業規則や雇用契約書で決めた所定労働時間で判断します。残業を含めた実際の労働時間ではありません。
たとえば、契約上は週18時間のパートさんが、人手が足りない週だけ22時間働いたとしても、それだけで加入の対象になるわけではありません。
月単位で決めている場合は「12分の52」で割る
所定労働時間を1か月単位で決めている場合は、1か月の時間を12分の52(約4.33)で割って、1週間あたりの時間を出します。境目は月およそ86.7時間です。

シフトで毎週の時間が変わる場合
週によって時間が変わるシフト制の場合は、その周期の平均で判断します。繁忙期など特定の月だけ時間が長い場合は、その月を除いた通常の月の時間で計算します。
月の時間でシフトを管理していると、週20時間との関係が見えにくくなります。境目の「月86.7時間」を、シフトを組む担当者と共有しておくと安心です。
残業で週20時間を超えたらどうなる?
所定労働時間が20時間未満でも、実際の労働時間が2か月続けて週20時間以上になり、その後も同じ状態が続くと見込まれる場合は、3か月目から加入の対象になります。
逆に、繁忙期に1か月だけ週20時間を超えて、翌月は元に戻ったという場合は、すぐに加入にはなりません。
「契約上は20時間未満だから大丈夫」と、実態に合わない契約のままにしておくのは危険です。残業が続いて実態が週20時間を超えていれば加入の対象になり、あとから加入漏れを指摘されると、さかのぼって保険料を納めることになりかねません。
雇用保険は2028年10月から「週10時間」に
雇用保険にも週20時間の基準があります。こちらは会社の規模に関係なく、週20時間以上で31日以上の雇用見込みがあれば加入します。
さらに、2028年10月1日からは、加入の基準が週10時間以上に広がります。その時点で週10時間以上20時間未満で働いている人は、施行日に加入することになります。
社会保険の「週20時間」を意識してシフトを組んでいても、2028年10月以降は週10時間以上の人が雇用保険の対象になります。パートさんごとの週の所定労働時間を名簿で管理しておくと、そのときの手続きもスムーズです。
会社がやること(シフト設計の進め方)
1. 週20時間前後の人を洗い出す
まず、パートさん一人ひとりの契約上の所定労働時間と、ここ数か月の実際の労働時間を一覧にします。特に、契約は20時間未満なのに実態は20時間前後、という人は要注意です。
2. 本人の希望を聞く
社会保険に入って手取りが減っても長く働きたい人もいれば、家族の扶養の範囲で働きたい人もいます。会社が一方的に決めるのではなく、本人の希望を聞いたうえで時間を決めます。
3. 「20時間未満」と「加入する」の2つに分けて組む
週19時間台で契約して、毎月のように20時間を超えてしまうのが、いちばん管理しにくい形です。20時間未満で働く人は余裕をもって短めに、加入する人は思い切って時間を増やす、というように2つのパターンに分けると、管理がぐっと楽になります。
4. 契約書を実態に合わせて結び直す
時間を決めたら、雇用契約書(労働条件通知書)の所定労働時間を書き換えます。契約と実態がずれたままにしないことが、加入漏れを防ぐいちばんの対策です。
人件費はどれくらい増える?
週20時間・時給1,200円のパートさんが社会保険に加入した場合、会社負担は月およそ1.6万円、年間でおよそ19万円です。


対象の人が10人いれば、年およそ190万円になります。小さくない金額ですが、働き控えで人が足りなくなれば、新しい人の採用や教育にもお金と時間がかかります。保険料だけでなく、人手が足りなくなったときのコストも一緒に比べてみてください。
経営の目線で考えたいこと
「働き控え」を前提にしたシフトには限界がある
賃金の要件がなくなったことで、「週20時間未満に抑えたい」というパートさんは増えやすくなります。全員の時間を短くすると、同じ仕事を回すために人数を増やす必要があり、採用や教育、シフト調整の手間も増えていきます。
「加入して長く働いてもらう」も選択肢に
社会保険に加入すると、将来の年金が増えたり、病気やけがで休んだときに傷病手当金を受け取れたりと、本人にもメリットがあります。そうした点を丁寧に説明し、時間を延ばして戦力になってもらうほうが、結果として採用のコストを抑えられる場合もあります。
どちらが正解というより、職場ごとに「何人に、どのくらい働いてほしいか」を先に決めることが大切です。そこから逆算すると、シフトの組み方が決めやすくなります。
使える支援制度
パートさんの加入や労働時間の延長を後押しする制度として、次の2つがあります。
- 保険料調整制度は、会社が保険料を多めに負担して、本人の手取りの減少をやわらげる制度です。新たに適用拡大の対象になる会社などが使えます。
- キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)は、パートさんを社会保険に加入させ、労働時間を延ばした会社が対象の助成金です。
どちらも、使える会社の条件や申請の順番に注意が必要です。くわしくは社会保険の適用拡大の記事の「使える支援制度」で紹介しています。
週20時間のチェックリスト
- パートさん全員の契約上の所定労働時間を一覧にした
- ここ数か月の実際の労働時間を確認した
- 月単位で契約している人は、月86.7時間を境目に確認した
- 週20時間前後の人に、働き方の希望を聞いた
- 「20時間未満」と「加入する」の2つに分けてシフトを組んだ
- 雇用契約書(労働条件通知書)を実態に合わせて結び直した
- 実際の時間が2か月続けて週20時間以上にならないか、毎月確認する仕組みを作った
- 2028年10月の雇用保険の拡大(週10時間以上)に備えて名簿を整えた
よくある質問
Q. 残業で1か月だけ週20時間を超えました。すぐに加入ですか?
A. すぐに加入にはなりません。加入の対象になるのは、実際の労働時間が2か月続けて週20時間以上になり、今後も続く見込みがある場合で、3か月目からです。
Q. 学生のアルバイトも、週20時間以上なら加入ですか?
A. 高校生や大学生などの学生は、原則として社会保険の対象外です。ただし、定時制や通信制の学生、休学中の人、卒業後も同じ会社で働く予定の人などは対象になります。
Q. 会社が適用拡大の対象でなければ、週20時間は関係ありませんか?
A. 社会保険については、会社が対象になるまでは関係ありません。ただ、雇用保険は会社の規模に関係なく、週20時間以上で加入します(2028年10月からは週10時間以上)。
Q. 月87時間の契約は対象になりますか?
A. 月87時間を12分の52で割ると週約20.1時間なので、週20時間以上の要件を満たします。月86時間なら週約19.8時間で、要件を満たしません。
まとめ
106万円の壁がなくなり、パートさんの社会保険の分かれ目は週20時間になりました。週20時間は契約上の所定労働時間で判断し、実際の時間が2か月続けて週20時間以上になり、その後も続く見込みなら3か月目から加入になります。
大切なのは、契約と実態をそろえることと、本人の希望を聞いたうえで「何人に、どのくらい働いてもらうか」を決めることです。まずは週20時間前後の人を洗い出すところから始めてみてください。
参考にした公的情報
厚生労働省「社会保険適用拡大 Q&A」
厚生労働省「パート・アルバイトの方への社会保険の適用について」
日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大」
厚生労働省「令和6年雇用保険制度改正(令和10年10月1日施行分)について」
日本年金機構「保険料調整制度の概要」
厚生労働省「キャリアアップ助成金 短時間労働者労働時間延長支援コース」(令和8年4月1日版)
※この記事は2026年10月時点の公表情報をもとにした一般的な解説です。個別の事情によって取り扱いが異なる場合があるため、具体的な対応は年金事務所やハローワーク、専門家にご確認ください。

