条文
第38条の4(企画業務型裁量労働制)
賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第三号に掲げる時間労働したものとみなす。
一 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であつて、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務(以下この条において「対象業務」という。)
二 対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であつて、当該対象業務に就かせたときは当該決議で定める時間労働したものとみなされることとなるものの範囲
三 対象業務に従事する前号に掲げる労働者の範囲に属する労働者の労働時間として算定される時間
四 対象業務に従事する第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
五 対象業務に従事する第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
六 使用者は、この項の規定により第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を対象業務に就かせたときは第三号に掲げる時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかつた当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。
七 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
2 前項の委員会は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 当該委員会の委員の半数については、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者に厚生労働省令で定めるところにより任期を定めて指名されていること。
二 当該委員会の議事について、厚生労働省令で定めるところにより、議事録が作成され、かつ、保存されるとともに、当該事業場の労働者に対する周知が図られていること。
三 前二号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める要件
3 厚生労働大臣は、対象業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るために、労働政策審議会の意見を聴いて、第一項各号に掲げる事項その他同項の委員会が決議する事項について指針を定め、これを公表するものとする。
4 第1項の規定による届出をした使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、定期的に、同項第4号に規定する措置の実施状況を行政官庁に報告しなければならない。
5 第1項の委員会においてその委員の5分の4以上の多数による議決により第32条の2第1項、第32条の3第1項、第32条の4第1項及び第2項、第32条の5第1項、第34条第2項ただし書、第36条第1項、第2項及び第5項、第37条第3項、第38条の2第2項、前条第1項並びに次条第4項、第6項及び第9項ただし書に規定する事項について決議が行われた場合における第32条の2第1項、第32条の3第1項、第32条の4第1項から第3項まで、第32条の5第1項、第34条第2項ただし書、第36条、第37条第3項、第38条の2第2項、前条第1項並びに次条第4項、第6項及び第9項ただし書の規定の適用については、第32条の2第1項中「協定」とあるのは「協定若しくは第38条の4第1項に規定する委員会の決議(第106条第1項を除き、以下「決議」という。)」と、第32条の3第1項、第32条の4第1項から第3項まで、第32条の5第1項、第34条第2項ただし書、第36条第2項及び第5項から第7項まで、第37条第3項、第38条の2第2項、前条第1項並びに次条第4項、第6項及び第9項ただし書中「協定」とあるのは「協定又は決議」と、第32条の4第2項中「同意を得て」とあるのは「同意を得て、又は決議に基づき」と、第36条第1項中「届け出た場合」とあるのは「届け出た場合又は決議を行政官庁に届け出た場合」と、「その協定」とあるのは「その協定又は決議」と、同条第8項中「又は労働者の過半数を代表する者」とあるのは「若しくは労働者の過半数を代表する者又は同項の決議をする委員」と、「当該協定」とあるのは「当該協定又は当該決議」と、同条第9項中「又は労働者の過半数を代表する者」とあるのは「若しくは労働者の過半数を代表する者又は同項の決議をする委員」とする。
本条について
経済社会の構造変化や労働者の就業意識の変化等が進む中で、活力ある経済社会を実現していくために、事業活動の中枢にある労働者が創造的な能力を十分に発揮し得る環境づくりが必要とされています。このような状況に対応した働き方の仕組みとして、定められた制度が企画業務型裁量労働時間制になります。
それぞれに労働基準法で認められる「事業場」の「業務」に「労働者」を就かせたときに、その事業場に設置された労使委員会で決議した時間を労働したものとみなすことができる制度になります。
企画業務型裁量労働制を導入できる事業場について
労働基準法で認められる事業場(対象事業場)について
企画業務型裁量労働時間制は、どのような事業場でも導入できる制度ではありません。労働基準法で認められる対象事業場が導入できる制度になります。
なお、具体的には、労働基準法で認められる業務(対象業務)が存在する以下のいずれかの事業場が該当します。
①本社・本店である事業場
②①のほか、次のいずれかに掲げる事業場
1.当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行なわれる事業場
2.本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に、当該事業場に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等である事業場
なお、個別の製造等の作業や当該作業に係る工程管理のみを行っている事業場や本社・本店又は支社・支店等である事業場の具体的な指示を受けて、個別の営業活動のみを行っている事業場は、企画業務型裁量労働制を導入することはできません。
労働基準法で認められる業務(対象業務)について
労働基準法で認められる業務(対象業務)とは次の事項にすべて該当する業務になります。
①事業の運営に関する事項(対象事業場の属する企業・対象事業場に係る事業の運営に影響を及ぼす事項)についての業務であること
②企画、立案、調査及び分析の業務(企画、立案、調査及び分析という相互に関連し合う作業を組み合わせて行うことを内容とする業務であって、部署が所掌する業務ではなく、個々の労働者が担当する業務)であること
③当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務であること
④当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること
●労働基準法で認められる労働者について
労働基準法で認められる労働者とは、次のいずれにも該当する労働者の範囲に属する者(対象労働者の範囲)であることされています。
①対象業務を適切に遂行するための知識、経験などを有する労働者
②対象業務に常態として従事している者
対象事業場で対象業務に対象労働者を就かせたときに、現実の労働時間に関わらず、その事業場における労使委員会で決議した時間を労働したものとみなすことができます。
したがって、企画業務型裁量労働時間制のみなし労働時間は、労働基準法第4条の労働時間に関する規定の適用に係る労働時間の算定について適用されることになります。
企画業務型裁量労働時間制の導入の流れについて
企画業務型裁量労働時間制の導入には、以下を行う必要があります。
①労使委員会の設置
②労使委員会での決議
③労働基準監督署長への決議の届出
④対象労働者の同意
⑤制度の実施
⑥労使委員会の決議から6か月以内に定期報告
⑦決議の有効期間の満了
⑧継続する場合は、労使委員会の決議から再度実施
なお、労使委員会で決議したことを、所轄の労働基準監督署に届け出なければ、企画業務型裁量労働時間制の効果は生じません。
労使委員会の設置について
企画業務型裁量労働時間制を導入する際は、対象となる事業場において労委委員会の設置及び必要な事項を当該委員会の委員の5分の4以上の多数により決議する必要があります。労使委員会とは、賃金、労働時間制その他の労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し意見を述べ、使用者及びその事業場の労働者を代表する者が構成員となっている委員会をいいます。
労使委員会の要件について
委員会の要件は以下の通りになります。
①委員会の委員の半数について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者に人気を定めて指名されていること
②委員会の議事について、議事録が作成・保存されるとともに、労働者に対する周知が図られていること
労使各側を代表する委員について
労使委員会は、労働者を代表する委員と使用者を代表する委員で構成されます。
人数については、特に規定されていません。ただし、労使各1名の2名からなるものは「労使委員会」として認められません。また、労働者側の委員は半数を占めている必要があります。
使用者側の代表委員は、使用者側の指名により選出しますが、労働者側の代表者は、対象事業場の過半数労働組合又は過半数労働組合がない事業場においては過半数代表者から、任期を定めて指名を受けなければなりません。
なお、指名の方法は、過半数労働組合が存在しない事業場においては、まず、労使委員会の指名する過半数代表者を36協定の過半数代表者などの選出方法と同様に、投票、挙手などの方法により選出する必要があります。
また、過半数労働組合、過半数代表者は、管理監督者以外の者の中から労働者を代表する委員の任期を定めて指名する必要があります。
労使委員会の運営のルールについて
労使委員会の収集、定足数及び議事その他労使委員会の運営について、必要な事項を規定する運営規程を策定する必要があります。なお、この規程の策定に当たっては、労使委員会の同意を得る必要があります。
運営規程で定めるべき項目
①労使委員会の招集に関する事項
・定例として予定されている委員会に関すること
・必要に応じて開催される委員会の開催に関すること
②労使委員会の定足数に関する事項
・全委員に係る定足数
・労使各側を代表する委員ごとに
③議事に関する事項
・議長の選出に関すること
・決議の方法に関すること
④その他労使委員会の運営について必要な事項
・使用者が労使委員会に対し、開示すべき情報の範囲、開示手続き及び開示が行われる労使委員会の開催時期
・労働組合や労働条件に関する事項を調査審議する労使協議機関がある場合には、それらと協議の上、労使委員会の調査審議事項の範囲
⑤労使委員会が労使協定に代えて決議を行うことができる規定の範囲についての定め
労使委員会で決議すべき内容について
労使委員会で委員の5分の4以上の多数により次について決議する必要があります。
なお、委員の5分の4以上の多数による決議とは、出席している委員全員の5分の4以上の多数による決議になります。
また、決議及び議事録は開催の都度、作成しなければなりません。保存は3年間、決議を行った委員に関わるものは、決議の有効期間の満了後の3年間となります。
これは作業場への掲示などにより労働者に周知しなければなりません。
対象となる業務の具体的な範囲
対象となる業務の範囲については、以下の①~④までの要件のすべてを満たしたものが該当します。具体的には、経営状態・経営環境などについて調査及び分析を行い、経営に関する経営を策定する業務などになります。
対象業務について、具体的な範囲を決議する必要があります。その要件としては、以下の4要件が挙げられます。
①業務が所属する事業場の事業の運営に関するものであること
例えば、対象事業場の属する企業などに係る事業の運営に影響を及ぼすもの、事業場独自の作業戦略に関するものなど
②企画、立案、調査及び分析の業務であること
③業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があること、業務の性質に照らして客観的に判断されること業務であること
④企画・立案・調査・分関という相互に関連し合う作業を、いつ、どのように行うかなどについて広範な裁量が労働者に認められている業務であること
対象労働者の具体的な範囲
対象労働者は、「対象業務に常態として従事していることが原則」になります。また、客観的にみて、「対象業務を適切に遂行するための知識、経験など」がない労働者を対象労働者として決議した場合も、企画業務型裁量労働時間制の効果は生じません。
例えば、新卒の新入社員など職務経験がない労働者を対象労働者として決議しても企画業務型裁量労働時間制の効果は生じないと考えられます。
労働したものとみなす時間
労働したとみなす時間は、労働時間として算定される時間になります。その際、1週間単位や1か月単位の時間を決議することはできません。実際のみなし労働時間の決め方については、法令で水準などは定められていませんが、割増賃金の支払いを免れるために低めのみなし時間を定めることは、制度に趣旨に反します。
使用者が対象となる労働者の勤務状況に応じて実施する健康及び福祉を確保するための措置の具体的内容
使用者は、対象労働者の健康及び福祉を確保するため、
①対象労働者の勤務状況を把握する方法を具体的に定めること
②把握した勤務状況に応じ、どういう状況の対象労働者に対し、いかなる健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確にすることを決議する必要があります。
使用者が対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
対象となる労働者からの苦情の申し出の窓口、取り扱う苦情の範囲など、措置の具体的内容を決議で定めることが求められています。
具体的には、企画業務型裁量労働時間制に関しては、業績評価制度や目標管理制度、これに基づく賃金制度が泡褪せて導入されていることが多いため、これらの相談が多く寄せられることが想定されます。
すでに企業内に苦情処理に関する窓口などを設置している場合で、合わせて企画業務型裁量労働時間制に関する苦情処理を併せて行う場合には、対象労働者にそのことを周知し、その窓口などが機能するよう配慮することが求められます。
労働者からの同意の取得について
企画業務型裁量労働時間制を適用するためには、決議に従い、対象となる労働者の個人の同意を得なければなりません。また、不同意の労働者に対し、解雇その他不利益取り扱いをしてならないとされています。
決議の有効期間について
決議の有効期間については、3年以内とすることが望ましいと考えられます。
企画業務型裁量労働時間制の実施状況に係る労働者ごとの記録の保存について
記録の保存については、決議の有効期間中及びその満了後3年間とされています。
企画業務型裁量労働時間制の実施について
企画業務型裁量労働時間制は、対象労働者を対象業務に就かせた場合に対象労働者に「実際の労働時間と関係なく、決議で定めた時間労働したものとみなす」効果が発生します。このみなしの効果は、労働基準法で定められている年少者及び女性の労働時間に関する規定の適用に係る労働時間の算定については、適用されません。
また、労働基準法第35条の休日労働に関する規定は、企画業務型裁量労働時間制によって労働時間を算定する場合にも適用されます。対象労働者が1週1日の法定休日に労働した場合には、その日の労働に対する賃金に加えて、休日割増分を支払う必要があります。さらに、労働基準法第37条で定められている午後10時から午前5時までの深夜時間帯に労働させた場合の割増賃金の支払い義務についても、みなし労働時間制によって労働時間が算定される場合も適用されます。そのため、深夜時間帯に労働した場合についても、その時間に応じて、深夜割増賃金を支払う必要があります。
なお、使用者は決議が行われた日から起算して6か月以内ごとに1回、所定様式により所轄労働基準監督署長へ定期報告を行うことが必要です。報告する事項は次のとおりです。
・対象となる労働者の労働時間の状況
・対象となる労働者の健康及び福祉を確保する措置の実施状況
労使協定に代えて労使委員会で決議できる事項
労使委員会では、企画型裁量労働時間制の決議のほかに、次の労使協定についてそれぞれ決議により代替することができます。
制度 | 労基法の該当条項 |
1か月単位の変形労働時間制 | 第32条の2第1項 |
フレックスタイム制 | 第32条の3 |
1年単位の変形労働時間制 | 第32条の4及び第2項 |
1週間単位の非定型的変形労働時間制 | 第32条の5の1項 |
一斉休憩の適用除外 | 第34条第2項ただし書 |
時間外・休日労働 | 第36条1項 |
時間外の割増賃金の代替休暇 | 第37条3項 |
事業場外労働制 | 第38条の2第2項 |
専門業務型裁量労働時間制 | 第38条の3第1項 |
年次有給休暇の時間単位付与 | 第39条4項 |
年次有給休暇の計画的付与 | 第39条第6項 |
年次有給休暇の期間の賃金の支払い方法 | 第39条第7項ただし書 |