条文
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
2 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
解雇制限について
解雇は、使用者の一方的な意思表示で行うものになります。労働者が労働能力を有していない状態で解雇の意思表示が行われると著しく生活を脅かされることになります。そのため、各種の法制で解雇制限が設けられています。
法令で解雇が禁止されているものについて
① 業務上の傷病による休業期間及びその後 30 日間の解雇(労働基準法第 19 条)
② 産前産後の休業期間及びその後 30 日間の解雇(労働基準法第 19 条)
③ 国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇(労働基準法第 3 条)
④ 労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇(労働基準法第 104 条)
⑤ 労働組合の組合員であること等を理由とする解雇(労働組合法第 7 条)
⑥ 女性(男性)であること、女性の婚姻、妊娠、出産、産前産後休業等を理由とする解雇(男女雇用機会均等法第6条、第 9 条)
⑦ 育児・介護休業等の申出をしたこと、育児・介護休業等を取得したことを理由とする解雇(育児・介護休業法第 10 条、第 16 条、第 16 条の 4、第 16 条の 7、第 16 条の 9、第 18 条の 2、第 20 条の 2、第 23 条の2)
⑧ 通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者について、パートタイム労働者であることを理由とする解雇(パートタイム労働法第8条)
⑨ 公益通報をしたことを理由とする解雇(公益通報者保護法第 3 条) など
業務上の傷病による休業期間及びその後 30 日間の解雇、産前産後の休業期間及びその後 30 日間の解雇について
「その後30日間」は暦日になります。労働日ではありません。
業務上の傷病で、療養中の労働者が出勤した場合、就業後30日を経過すれば解雇制限は解除されます。また、30日の間で制限されるものは「解雇」になります。解雇予告を行うことは制限されていません。
しかしながら、解雇予告期間中に解雇制限の事由が生じた場合は、予告期間が満了しても解雇はできません。この場合は、解雇制限期間が経過した際に、再び解雇の効力が発生しますが、解雇制限期間が長期に及ぶ場合は解雇予告としての効力を失うと判断されます。
解雇制限に関する通達(昭和25年4月21日、昭和24年11月11日基収3806号)
労災保険の障害補償給付が行われた後、外科後処置として療養している機関は、傷害補償支給事由が確定した日から30日以後は、解雇制限が解除されます。
解雇制限期間中に、労働者の責めに帰すべき重大な過失が判明しても、その期間中の解雇はできません。
解雇制限期間について
業務上の傷病による休業期間及びその後 30 日間の解雇
●産前産後の休業期間及びその後 30 日間の解雇

●解雇制限期間中の解雇予告

●解雇制限期間中に解雇事由が発生した場合

解雇制限の除外について
解雇制限期間中であっても、以下に該当する場合は解雇することができます。
① 療養開始後3年を経過し、業務上の傷病が治らない場合において、使用者が平均賃金1,200日分の打切補償を支払う場合
② 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
ただし、②の場合は所轄労働基準監督署の認定を受けることが必要です。なお、この認定は解雇の効力に影響を及ぼすものではありません。
打切補償を支払う場合の解雇制限の除外規定について
労災保険法の療養補償給付を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病が治らない場合には、使用者は打切補償を支払うことにより解雇制限の除外規定を受けることができるとしています。(最高裁第二小法廷判決平成27年6月8日学校法人専修大学事件)
「天災事変その他やむを得ない事由」とは
天災事変その他やむを得ない事由とは、不可抗力に基づき、かつ、突発的な自由を指します。
震災に伴う事業場の倒壊、火災による事業場の消失などが該当します、事業主の故意または重大な過失に基づくものや経営上の見通しの齟齬といったものは該当しません。(昭和63年3月14日基発150号)
解雇制限期間中の労働契約期間満了について
期間の定めのある労働契約を締結していた労働者については、契約期間満了後引き続き雇用契約が更新されたと認められる事実がない限りその期間満了とともに、労働契約は終了します。
したがって、業務上の傷病などで療養のため休業する期間中の者についても、契約期間満了となった場合、その期間満了とともに労働契約が終了するため、解雇制限の規定が適用される問題は生じません。