労働基準法第32条 労働時間

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条文

第32条(労働時間)
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

本条について

労働基準法では、原則として労働時間の限度を、1週40時間以内、かつ、1日8時間以内とし、休日を1週に1日以上与えることとしています。(労働基準法第32、35条)

この労働時間・休日のことを一般的に「法定労働時間」・「法定休日」とよびます。法定労働時間の原則は、変形労働時間制などの適用を除き、どの日も8時間以内、どの週も40時間以内である必要があります。

また、この上限を超えて労働させた場合、割増賃金の支払いが必要となる(同法37条1項)。このため、労基法上の労働時間の定義が問題になります。

「1週間」とは

1週間について、特段、就業規則などで定めていない場合は、日曜日から土曜日までの暦週を1週間とします(昭和63年1月1日基発1号)

「1日」とは

1日については、原則として、午前0時から午後12時までの暦日になります。

ただし、勤務が2暦日に渡る場合は、1勤務として取扱い当該勤務は始業時刻に属する日の労働として、「1日」の労働とします(昭和63年1月1日基発1号)

「法定労働時間」と「所定労働時間」について

法定労働時間とは、労働基準法で定められている時間内での労働時間を指します。

一方、所定労働時間は就業規則等で定められている労働時間になります。なお、所定労働時間は法定労働時間内である必要があります。

労働時間について

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいいます(平成12年3

月9日最高裁第一小法廷判決 三菱重工長崎造船所事件)。

労働時間に該当するか否かは、労働契約や就業規則などの定めによって決められるものではなく、客観的に見て、労働者の行為が使用者から義務づけられたものといえるか否か等によって判断されます また、使用者の明示的・黙示的な指示により労働者が業務を行う時間は労働時間に当たります。

使用者の明示的・黙示的な指示によるもので、次のような時間は労働時間に該当すると考えられます。

① 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
② 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められている場合で、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
③ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

なお、安全衛生法に関する一般健康診断に必要な時間は、労働時間ではないと解されますが、有害な業務に従事する労働者に対して行われる特殊健康診断及び安全衛生境域、安全衛生委員会に必要な時間は、労働時間に該当すると考えられます。

また、研修・教育訓練について、業務上義務づけられていない自由参加のものであれば、その研修・教育訓練の時間は、労働時間に該当しないと解されます

不活動時間(仮眠時間など)について

労働者が具体的な作業に従事していなくても、業務が発生した場合に備えて待機している時間は、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価されます。そのため、その時間は労基法上の労働時間に当たると考えられます。

したがって、仮眠時間なども、労働から完全に離れることが保障されていない限り、休憩時間ではなく、労基法上の労働時間に当たると解されます。

判例においては以下のようになっています。

最一小判平成14年2月28日 大星ビル管理事件
24時間勤務に従事するビル警備員の仮眠時間が、仮眠室で待機することと警報・電話等に直ちに対応することが義務付けられていることを理由に、労働時間に該当すると判断された事案になります。

最二小判平成19年10月17日 大林ファシリティーズ事件
住み込みのマンション管理人が、平日には所定労働時間外にも住民の要求に応じて宅配物の受渡し等を行うよう指示され、断続的業務に備えて待機せざるをえない状態に置かれていたとして、居室における不活動時間を含めて労働時間に該当すると判断された事案になります。
これに対して、日曜祝日については上記のような義務づけはなかったとして、ごみ置き場の扉の開閉など現実に業務に従事した時間のみが労働時間に当たるとされています。

出張について

出張中の休日や往復の移動時間については、通達や判例などにおいて以下のように解されています。

①昭和23年3月17日 基発461、昭33.2.13 基発90
出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない。
②日本工業検査事件(横浜地裁川崎支部 昭和46年1月26日)
出張の際の往復に要する時間は、労働者が日常の出勤に費す時間と同一性質であると考えられるから、右所要時間は労働時間に算入されず、したがってまた時間外労働の問題は起り得ないと解するのが相当である。

したがって、 出張の往復に要する時間について、公共交通機関等を利用し、その間、自由に過ごせる場合は、労働時間とは考えません。

ただし、以下の場合などは労働時間に該当すると解されます。

移動中に業務に服している場合

出張で飛行機やフェリーを利用する場合、移動中の機内や船内は自由に行動できます。しかしながら、モバイルPCで仕事をさせている場合などはその時間は労働時間に該当すると考えられます。

会社の車に乗って仕事や出張をする場合

会社の車に乗って仕事や出張をする場合、車に乗っている時間は原則として労働時間になります。また、例えば、バスのドライバーが二人乗って交替で運転する場合、目的地に到着するまでの時間は、運転しない一人が座席で休息や仮眠をしても、それは休憩時間ではなく労働時間です。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置について

始業・終業時刻の確認・記録について

使用者には労働時間を適正に把握する責務があります。労働時間の適正な把握を行うためには、単に1日何時間働いたかを把握するのではなく、労働日ごとに始業時刻や終業時刻を使用者が確認・記録し、これを基に何時間働いたかを把握・確定する必要があります。

始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法について

始業・終業時刻の確認・記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法による必要があります。

①使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
②タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。

「自ら現認する」とは、使用者自ら、あるいは労働時間管理を行う者が、直接始業時刻や終業時刻を確認することです。なお、確認した始業時刻や終業時刻については、該当労働者からも確認することが望ましいです。

また、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基本情報とし、必要に応じて、例えば使用者の残業命令書及びこれに対する報告書など、使用者が労働者の労働時間を算出するために有している記録とを突き合わせることにより確認・記録する必要があります。

自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置について

自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行わざるを得ない場合、以下の措置を講ずる必要があると考えられます。

労働者への説明

労働時間の考え方、自己申告制の具体的内容、適正な自己申告を行ったことにより不利益な取扱いが行われることがないことの説明が必要になります。

管理者への説明

適正な労働時間の管理には、労働時間を管理する者の理解が必要になります。そのため、労働者に対するものと同様に、労働時間の考え方や自己申告制の適正な運用について、管理者に説明をする必要があります。

実態調査の実施

使用者は自己申告制により労働時間が適正に把握されているか否かについて定期的に実態調査を行い、確認することが望ましいものです。特に、労働者が事業場内にいた時間と、労働者からの自己申告があった労働時間との間に著しい乖離が生じているときは、労働時間の実態を調査が必要になります。また、自己申告制が適用されている労働者や労働組合等から、労働時間の把握が適正に行われていない旨の指摘がなされた場合などにも、このような実態調査が必要になります。

労働時間の適正な把握

自己申告による労働時間の把握とタイムカード等を併用し、自己申告された労働時間とタイムカード等に記録された事業場内にいる時間に乖離が生じる場合があります。その理由を報告させている場合、その報告が適正に行われていないことにより労働時間の適正な把握がなされなくなるおそれがありえます。そのため、使用者はその報告の内容が適正か否かについても確認する必要があります。

労働時間の適正な申告の阻害の禁止

自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立ちます。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはなりません。

また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずる必要があります。

さらに、労働基準法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる36協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然となりますが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習に行われていないかについても確認する必要があります。

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この記事を書いた人

人事系コンサルで頑張っている者です。
毎日全力で突っ走ってます!!

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