条文
第13条(この法律違反の契約)
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。
「労働契約」とは
労働問題に関するたくさんの法律の中に、労働基準法や労働組合法をはじめ、最低賃金法や労働安全衛生法といった様々な法律があります。
労働者が提供する労働力を利用して事業活動を行うために、企業(使用者、事業主)は労働者との間で労働契約を結びます。この際、どういう条件で労働者を使用するかといった契約内容は、使用者と労働者の合意で決定するのが基本です。
ただし、以下の契約上の性質から労働契約には他の契約にはない特色があります。
① 使用者と労働者の交渉力の違いがあるため、契約の自由を制限し労働者の保護を図る必要があること
② 労働者の契約上の債務は自分自身の心身を使った労務の提供であるため、労働者の健康や安全の確保を図る必要があること など
以上より、契約自由の原則を修正し、労働基準法などの法令において労働契約で定める労働条件の最低基準が定められています。この最低基準は罰則と行政監督つきで設定されており、使用者はこの基準を遵守する必要があります。
仮に、労働者と使用者双方の合意の上で、労働基準法等で定める最低基準に達しない労働契約を結んだとしても、それは無効となり、労働基準法等の定めた基準と同様の定めをしたものとみなされます。
「その部分については無効とする」とは
労働契約のうち、法律の基準に達しない部分のみを無効として、その他の部分は有効とすることを意味します。そのため、あくまで法律の基準に達しないものを無効とするのであり、法律の基準より有利なものは有効となります。
労働契約と就業規則の関係
労働者が使用者と締結した労働契約の労働条件が、就業規則で定める労働条件より低い場合、就業規則の労働条件が適用されます。ただし、労働契約で定めた労働条件が就業規則で定める就業規則を上回る場合は、労働契約が優先します。
就業規則と労働協約の関係
就業規則は、法律や労働協約に反する定めはできません。就業規則が使用者が一方的に定める労働条件であるものに対して、労働協約で定める労働条件は、使用者と労働組合が団体交渉を通じて決定するものになります。そのため、使用者だけでなく労働者の集団的意思が反映されたものになりますので、労働協約は就業規則よりも優先した効力が認められると考えられます。
採用内定について
採用内定の実態は多様であるため、採用内定の法的性質について位置買いに論じることは困難であり、採用内定の法的性質を判断する場合は、当該企業の当該年度の採用内定の事実関係に即して判断する必要があります。
内定取り消しに関する判例(大日本印刷事件 最高裁判決昭和 54.7.20)
「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。」
採用内定が認められる正当な理由とは
会社側に、契約を解約する権利がある一定の範囲とは、内定者の側に以下のような事由がある場合が該当します。
① 履歴書等の提出書類に虚偽の記載を行っていたことが発覚した場合
② 内定者の健康状態が悪化し働くことが困難な場合
③ 卒業予定であった学校を卒業できなかった場合、所定の免許・資格を取得できなかった場合
④ 刑事事件を起こしてしまった場合 など
労働契約の解除は、法律上は通常の解雇と同等と解されます。そのため、上記のような理由に当てはまらず、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、無効となることが考えられます。しかし、経営状況の悪化を理由に会社が新卒者の内定を取り消す事例がみられ、問題となる場合があります。
会社側が、経営状況の悪化を理由に採用内定を取り消す場合、前提として、会社は、採用内定取消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講じることが求められます。それでもなお、やむを得ない事情により新卒者の採用内定取消しを行おうとする場合は、事業者はあらかじめハローワークに通知することが、職業安定法施行規則により定められています。
「試用期間」について
試用期間とは、勤務態度・能力・技能等を見て正式採用するかどうかを判断する期間とされています。試用期間中といっても、労働契約を締結しています。したがって、本採用としないことは「不採用」ではなく、契約の解除になるため、「解雇」となりますので、合理的な理由が必要となります。
この場合に要求される「合理的な理由」とは、試用期間中の勤務状態等により、採用前には知ることができなかった重大な事実が判明した場合に限られます。ただし、この理由は、何年も働いてきた人を解雇する際に求められるものほど厳しいものではありません。
また、試用期間の延長や余りに長い試用期間も、労働者に対して重大な不利益を及ぼしかねません。試用期間の長さについて、「何年以上を禁止する」と直接定めた法律はありませんが、判例では、労働者の能力や勤務態度等について判断するのに、通常必要な範囲を超えた試用期間については無効としています(ブラザー工業事件 名古屋地裁判決昭和59年3月23日)。
また、有期契約労働者を正社員に登用する際など、雇用が継続中に試用期間を設けることは原則としてできないとした判例もあります。(ヒノヤタクシー事件 盛岡地裁判決昭和62年8月16日)。